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神戸地方裁判所 昭和48年(ワ)706号 判決 1976年5月06日

原告

東郷春雄

被告

大森剛四郎

主文

被告は原告に対し金一、八二三、七三六円及び内金一、六六三、七三六円に対する昭和四八年八月一二日以降、内金一六〇、〇〇〇円に対する同五一年五月七日以降各完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告、その余を被告の負担とする。この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告 被告は原告に対し金四、〇〇〇、〇〇〇円及び内金三、七〇〇、〇〇〇円に対する訴状送達の日の翌日から、内金三〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日から各完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訟訴費用は被告の負担とする。

仮執行宣言。

被告 原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

一  事故の発生

原告は昭和四七年一一月三〇日午後九時五〇分頃神戸市葺合区脇浜町二丁目一三番一号先国道を自転車に乗車し横断中、被告運転の小型乗用車(神戸五五は六六八九号)に衝突され、脳挫傷、左頭蓋内出血、左鎖骨、右前脳骨骨折等の傷害を受けた。

二  責任原因

被告は事故車を保有し自己のため運行の用に供していた。

三  損害

原告は右傷害により事故当日より現在迄入院加療中であるが、右傷害は同五〇年一月三一日強い言語障害、上肢の完全麻痺、脳傷害による強い両下肢の運動失調(歩行も困難)の後遺障害を残し症状は固定し、右後遺障害は自賠法施行令別表後遺障害等級の第三級に該当する。

(一)  療養費

(1) 入院雑費 二三七、〇〇〇円

入院七九〇日 一日三〇〇円の割合

(2) 部屋代差額 三三六、四六〇円

(3) 付添看護料 二三六、三二四円

(二)  逸失利益

(1) 休業損害 二、九八三、二九二円

原告は神戸製鋼所、神戸製鉄所に勤務し、本件事故前三ケ月の手取収入は賃金合計二八四、三二六円下期賞与一一九、八〇〇円であつたから、一ケ月の平均収入は一一四、七四二円、症状固定迄二六ケ月の休業損害は二、九八三、二九二円となる。

{(68,168円+111,970円+104,188円)÷3}+(119,800円÷6)=114,742円

114,742円×26=2,983,292円

(2) 後遺症による逸失利益 一三、八一〇、三四七円

114,742円×12×2/3×15.045=13,810,347円

(三)  慰藉料 五、七〇〇、〇〇〇円

(四)  弁護士費用 三五〇、〇〇〇円(内金五〇、〇〇〇円は着手金、内金三〇〇、〇〇〇円は成功報酬)

四  損害の填補

原告は被告より四二〇、〇〇〇円、勤務先である神戸製鋼所より三六五、〇〇〇円、自賠責保険より後遺症補償金として三、九二〇、〇〇〇円の支払を受けた。

五  仍て被告に対し三(一)乃至(三)の損害の合計二三、三〇三、四一八円より右填補額を控除した金一八、五九八、四一八円の内金三、六五〇、〇〇〇円と(四)の弁護士費用の合計金四、〇〇〇、〇〇〇円と弁護士費用中成功報酬にあたる三〇〇、〇〇〇円を控除した金三、七〇〇、〇〇〇円に対する訴状送達の日の翌日より、右三〇〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日より各完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁並びに抗弁)

一  原告主張一の事実は傷害の部位程度を除き認める。

二の事実は認める。

三の事実は不知。

二  免責の主張乃至過失相殺

本件事故現場は片側五車線の交通量の著しく多い国道で、被告は事故車を運転し東行車線の第三通行帯を制限速度に従い時速五〇粁で東進し事故現場にさしかかつたが、現場の信号は東行青を示していたから、そのまま進行しようとしたところ、突然中央分離帯の切れ目辺りから自転車に乗車した人影がとび出して来るのを認めたので、急停車の措置をとつたが及ばず衝突したものである。

原告には信号無視の重過失があるのに対し被告は信号に従つて走行していたのであるから、優先通行権があることは疑を容れず、又五車線もある交通頻繁な道路で自車の右側に更に二車線もある場合に絶えず右側から自転車が飛び出すのでないかと注意しながら走行するのは、自転車の速度並びに視角から考えて不可能であり、他方原告は自らの危険においてその横断行為を選択したものと言うべきであつて、結果として事故に遭遇したとしても、損害の賠償を請求しうべきものではなく、本件事故は原告の一方的過失により発生したものである。

仮りに被告に若干の過失が存するとしても、前記原告の過失を考慮すれば、相当程度の過失相殺がなさるべきである。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  原告主張の日時場所で原告主張衝突事故が発生したこと、被告は事故車の運行供用者であることは当事者間に争がない。

二  免責乃至過失相殺の主張について。

成立に争のない乙第一、二号証、証人杉山竹治の証言、被告本人尋問の結果によれば、本件事故現場は片側五車線(片側幅員一八米)、幅四米の中央分離帯のある国道二号線と南北に走る道路の交差する信号機による交通整理の行われている交差点であること、被告は事故車を運転して制限速度五〇粁で第三車線を東進し本件交差点にさしかかつたが、前方の東西信号が青信号であつたので、そのままの速度で右交差点を通過しようとしたところ、本件交差点西側の中央分離帯東端部附近から、突然自転車が自車の進路上にとび出して来るのを右前方六米に迫つて発見し急制動の措置をとつたが及ばず、自車右前フエンダー部附近を自転車前輪に衝突させ、被告は約一二米東方に跳ね飛ばされたこと、右事故当時の東西信号の表示の変化は、右国道北側の歩道を西から東に歩行していた者が、本件交差点に入る二、三米手前で青信号にかわり、横断歩道を東に渡り歩道を二、三米歩行した時に衝突音を聞いていること、右交差点における信号機のサイクルは東西信号は青八六秒、黄五秒、赤三九秒、南北信号は青二九秒、黄四秒、赤九七秒であること、現場附近国道は歩道及び中央分離帯に約三〇米間隔で水銀灯が設置されていて、前方約八〇米の障害物は充分に発見される照明の状況にあつたこと、原告乗車の被害軽快車は交差点西側中央分離帯寄りを横断しようとしていたもので、右軽快車が東行車線に進出するのは第三車線を走行する車両からは約二九・三米、西方の地点で目撃することができること、本件事故当時事故車附近には東行する車両が存在しなかつたこと、が認められる。

右事実によれば、原告は南北信号、青の終期頃、自転車に乗車し右国道の横断を企て、程なく信号は黄変し、東行車線に進出したときは、赤信号となつていたものと認められ、右信号の表示を無視して横断を続行したことは重大な過失であることは明らかであるが、被告が本件交差点に進入する際東西信号は青であつたとしても、その数秒前に赤信号から青信号に変つたものと認められる。このような場合、片側五車線に及ぶ国道を信号に従つて走行する車両は交差点に進入するたびに左右の交通状況を確認すべき注意義務はないとしても、第三車線を走行する被告において前方をより注視しておりさえすれば、被害自転車が東行車線に進出するのは、少くとも二五米前方で視界に入つたものと認められ、左に転把することにより衝突を回避することができたものと認めるのが相当であり、被告にも若干の過失を認めざるを得ず、本件事故が原告の一方的過失により発生したものとすることはできない。

被告の免責の主張は採用できない。

そして、右認定の事実によればその過失割合は原告八割、被告二割とするのが相当である。

三  損害

成立に争のない甲第二、第七、第八、第九号証と証人東郷美智代の証言によれば、原告は本件事故によりその主張の傷害を蒙り、即日金沢病院に入院開頭術を施行し硬膜下血腫の洗滌、排出を行い、以後入院治療に努めたが、同五〇年一月三一日、原告主張後遺症を残しその症状は固定した旨診断されその後遺障害は自賠法施行令別表記載後遺障害等級三級に該当し、現在も尚医療保護を受け有馬高原病院に入院治療中であるが社会復帰は困難と認められる。

(一)  療養費

(1)  入院雑費 二三七、〇〇〇円

請求通り認める(一日三〇〇円七九〇日)

(2)  部屋代差額 三三六、四六〇円

前記傷害の程度に鑑み、個室の使用が必要であることが認められ、その差額は原告が負担した

初診料その他一部負担金等を含め、原告主張通りであることは成立に争のない甲第三号証の一乃至一五により認める。

(3)  附添看護料 二三六、三二四円

証人東郷美智代の証言により成立の真正を認め得る甲第四号証の一乃至九により認める。

(二)  逸失利益

(1)  休業損害 三、二六四、六三三円

成立に争のない甲第六号証と証人東郷美智代の証言によれば、原告は株式会社神戸製鋼所に勤務し昭和四七年度において給与、賞与として、年間一、五〇六、七五四円を得ていたことが認められるから、症状固定迄の休業損害は、三、二六四、六三三円となる。

(1,506,754円×2)+(1,506,754円/12×2)=3,264,633円

(2)  後遺症による逸失利益 二二、六六九、二六四円

原告は本件事故当時満四〇歳、症状固定後平均余命の範囲内で尚二三年間就労可能と認められるところ、前記後遺症により労働能力の全てを喪失したと認めるのが相当であるから、ホフマン式計算法により中間利息を控除し逸失利益の現在値を求めると二二、六六九、二六四円となる。

1,506,754円×15.0451=22,669,264円

(三)  慰藉料 五、一〇〇、〇〇〇円

前記傷害の程度、入院期間、後遺症を考慮すると、その慰藉料は五、一〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

四  過失相殺

右の損害合計三一、八四三、六八一円に前記割合による過失を斟酌すると、原告の損害は六、三六八、七三六円となる。

五  損害の填補

原告が損害の填補として、その主張の金員合計四、七〇五、〇〇〇円の支払を受けたことは被告も明かに争わないから自白したものと看做すことができ、之を前記過失相殺後の損害金から控除すると、原告の損害は一、六六三、七三六円となる。

六  弁護士費用

事件の難易、請求額、認容額を考慮すると被告に負担させるべき弁護士費用は一六〇、〇〇〇円とするのが相当である。

七  以上の次第で原告の本訴請求は、金一、八二三、七三六円及び弁護士費用を除く内金一、六六三、七三六円に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明かである昭和四八年八月一二日以降、弁護士費用一六〇、〇〇〇円に対する本判決言渡日の翌日である同五一年五月七日以降各完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当であるから之を棄却し、訴訟費用負担については民事訴訟法第九二条、第八九条、仮執行宣言については同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松浦豊久)

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